[chapter9]

授業終了のチャイムが校内に響き渡る。やっと始めの授業が終わったんだ、と、れんは溜め息を吐いた。
休み時間は15分間ある。この時間をどう過ごせばいいのか、れんは考えていた。考えてみたけれど、机でボーッとしてるくらいしか思い付かず、結局いい案は浮かばなかった。

「ねぇ。」

その時背後から声を掛けてきたのは、先程世話になった女子生徒―福巳梨瀬だった。

「いきなり呼び捨てにしちゃってもいいかしら。」

梨瀬はれんの隣席の椅子を引っ張って座り、れんの近くまでぐっと寄ってきて言った。

「れんって中学女子校?」

唐突な質問に図星をさされ、れんはしどろもどろになりながらも答えた。

「えっ…う、うん。」

梨瀬は口の端をあげると、耳にかかった髪をかきあげて言った。

「やっぱり。なんか経験も慣れもしてなさそうだなって思ってたのよ。あがり症でもあるでしょう?」

「どうして…」

「どうして分かるか?天下の美女、梨瀬さんを舐めてもらっちゃ困るわ。」

ふふん、と鼻を鳴らして梨瀬は踏ん反りがえった。この人は特種能力か何かがあるんじゃないか、と、れんは不思議に思った。
れんの驚き顔を余所に、梨瀬は不躾な質問を続けた。

「彼氏はお持ちで?」

その質問に、れんは目を丸くして勢い良く首を横に振った。
予想外のれんのアクティブな動きに梨瀬は少し驚いたが、仕切り直して今度は小声で聞いてみる事にした。

「彼氏欲しい?正直に。」

「しょ…正直に言うの?」

梨瀬が黙って頷く。

「ほ、欲しいとは思うけど、私みたいのじゃ好きになってくれる人なんていないだろうし…」

れんが少し俯きめに話す。

「そう。じゃあ今度はあたしが正直に言うわね。」

片肘をつきながられんの返答を聞いていた梨瀬は真面目な顔で言った。

「あたしが見る限り、その細身スタイルもいいものよ。小尻だし、まりねみたいな特別貧乳ってわけでもなさそうだし、70点〜75点ってところね。
そのウルフヘアを利用したお洒落な髪型もたくさんあるし、すっぴんでこのままじゃ勿体ないかもしれないわよ。…ってのでちょっと秘策なんだけど。」

秘策?秘策って秘密の策略って事?一体何なんだろう。れんは小首を傾げた。
梨瀬はれんの表情を見て意味深な笑みを浮かべると、隣りの机上に転がっていたシャーペンを拝借し、れんの机にスラスラと書き始めた。

『明日合コンがあるんだけど、来ない?』

クエスチョンマークを書き終えると、梨瀬は確認がてられんを横目で見た。

「えっ…そんな」

授業開始のチャイムが鳴る。

「あたしに任せなさい。」

梨瀬はそう言うと、自分の席に戻っていった。
れんは今の話が本当なのか冗談なのかも飲み込めないまま、二時限目の授業を迎えた。



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