[chapter6]
「まだ家にいるのかなぁ。」
伊紗は腕時計を見ながらそわそわしていた。伊紗の腕時計の針は8:55を指してい
た。
「あの馬鹿の事?放っときなさいよ、あんな馬鹿。あたしの皆勤賞を奪った罰として成績をオール1にされちゃえばいいのよ。」
まりねは頬を最大限に膨らませて言った。今朝の出来事を相当根に持っているようだ。
「そんな事願わなくても十分オール1でしょう、干紗は。」
梨瀬が携帯をいじりながら言った。伊紗は腕時計を見ながら苦笑いをした。
「いや…、おかしい事にテストだけは高得点なんだよね。」
「割に合わなーい。模範解答でも盗んでるんじゃないの?」
携帯の画面を見ながら梨瀬が言った。指をテキパキと動かしている様子だと、メールを打っているのだろうか。
「テスト前に『全然勉強してないんだけど。』とかほざく馬鹿と一緒なんじゃない?絶対夜な夜な勉強してるわよ。今度覗いてみな。」
「そうするわ。」
梨瀬の提案に光の速さで合意したのはまりねだった。
ガララ、とドアの開く音がした。
伊紗とまりねは音のした方を見た。梨瀬も携帯の画面から目を離して垣間見た。
教室に入ってきたのは、俯いている優衣花と、黒い学生鞄を怠そうにぶら下げた、伊紗の片割れ、新堂干紗だった。
「あッ!」
まりねが勢い良く立ち上がると、椅子は哀れな音を立てて背後に倒れた。当の本人は鬼のような形相で干紗を睨め上げていた。干紗はそんなまりねに気付いたのか、肩をゆっくり上下させた。
「優衣花…?」
紗奈枝は俯きながらベランダに行く優衣花を不信に思い、声をかけてみたが、反応はなかった。優衣花はベランダに行くなり、すとんと座って顔を隠してしまった。
その様子に敬太も気付き、紗奈枝のそばに寄ってきた。
「紗奈枝…」
「……」
困惑の表情を隠せずに、敬太は紗奈枝を見た。
紗奈枝はベランダに出、優衣花の隣に座って言った。
「…どうしたの?」
優衣花の肩が小刻みに震えている事に気付いた紗奈枝は、十五分前のように優衣花の頭を軽く撫でた。
「怖かったの?」
優衣花は手を伸ばした。紗奈枝にその手が当たると、体を少しひねって、紗奈枝に倒した。
「怖かった……ッ怖かったよぉ…」
聞こえるか聞こえないかギリギリの大きさで、優衣花は言った。
窓の枠に両腕を置き、二人のやり取りを見て敬太は安堵した。
晴れ日の続く青空の朝、1年D組はいつも通りに騒がしかった。
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