[chapter4]

厚いガラスの扉が目の前に立ちはだかっている。
これを開ければ――
鼓動の高鳴りが強く聞こえる。それだけ自分が緊張しているんだ。白いブラウスの上から胸を押さえ、さっきの坂を一気に駈け登った時とは違う音をしている事を確認した。
二度、深呼吸をして重たい扉を開けた。校内はやたら静かだった。真面目な学校なのだろうかと思った。下駄箱でローファーを脱ぎ、隅に置いて、鞄の中から上履きを取り出して履いた。
朝の光が反射する廊下を歩いていく。だが職員室がどこにあるかわからなかった。誰かに聞くにも、誰も来る様子がない。
辛うじて賑やかな方に向かって行って教室に辿り着いたら気まずいだろうと思いながら、なるべく生徒との接触のないよう慎重に職員室を探す事にした。
職員室は意外と簡単に見つかった。ノックをして恐る恐るドアを開ける。
お茶をすすりながら新聞を読んでいた中年の男性教員が迎え入れてくれ、校内の各教室の仕組みや特別教室の説明をしてくれた。
おまけに学食のパンのメニューや、一日に十食の限定パンの存在も教えてくれた。そして最後に一言、「俺のおすすめ は海老入り炒飯。」と言った。
時計の針はもうすぐ9時を指そうとしていた。すると背後からドアの開く音と共に低い声がした。

「井上先生、まだ来て…あっ。」

「長谷川先生、この子がそうですよ。」

井上と呼ばれた教員に手の平を軽く差し出され、ビクンとした。女子生徒は、もしかして約束の時間に遅れてしまったのではないかとドキドキしていた。

「えっと…高宮れん?」

「あっ、はい!」

長谷川の振りに焦りにも似たドキドキがピークに達した女子生徒―高宮れんは、声をうわずらせて言った。

「ボイコットされたかと思ったぞ。」

長谷川は安堵の入り混じった笑い方をして言った。

「すみません…。」

「じゃあ行こうか。」

「えっ?」

「行くぞ。」

れんはさっさと歩いて行ってしまう長谷川の後を急いで追った。ふと後ろを振り向く。先程のようにお茶をすすりながら新聞を読んでいた井上はれんに気付いて微笑んだ。
れんは軽く頭を下げて言った。

「ありがとうございました。」

れんが部屋を出て行く。井上はまた微笑んだ。



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