[chapter14]

「もうすぐ帰れる!」

そう言って冬永之也は緑髪を揺らせ背伸びをした。

「お前はいいな。気楽で。」

之也の隣で憂鬱そうに溜め息を吐きながら、村崎八梛はぶっきらぼうに言った。

「これからバイト?」

八梛の前の席に座って菓子をつまんでいた敬太が聞く。
八梛は首を振った。

「綾芽が風邪引いててさ。あいつの分担まで俺に回ってきたんだ。」

そう言って頭を抱える八梛を横目に、之也が呟く。

「いい弟だな、お前。婿に来る?」

「遠慮する。」

「じゃあ私の婿に来る?」

元々の之也の席に陣取っていた紗奈枝が同じく言うと、之也の目の色が変わった。

「行かないよな八梛。」

今までボーッとしていた之也の真剣な表情を盗み見し、八梛は遠目に呟いた。

「行こうかな。」

「どっかの誰かより頼り甲斐ありそうだし、助かるわー。」

八梛に続いて紗奈枝も言うと、二人同時に之也を見た。之也の表情はこれまでになく陰っていた。あまりの表情の変化に、菓子を頬張っていた敬太が吹き出す。
魂が抜けたように放心状態に陥っている之也を窺いながら、敬太が小声で言った。

「じょ、冗談だって言わなくていいの?」

紗奈枝と八梛は平然としていた。

「おもしろいから放っとけばいいのよ。」

「これ絶対帰りまでこの調子だな。さすが小動物。」

その時敬太は、この人たちSだ、と悟った。
すると、敬太の持っていた菓子袋が鳴った。敬太の背後に挂が立っていた。断りもなしに当たり前のように、ちゃっかり菓子をつまんでいる。
そして微笑んで言った。

「小動物は過度なストレスを与えると死ぬんだよ。」



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